11月というのに、暖かな日が続きます。
校長室の窓からは半袖で走り回る子供たちが見えて、その景色は穏やかで平和そのものです。
しかし、世界に目を向けると、今なお戦争が続いていて、この子たちと同じくらいの歳の子供たちが戦火に追われ、または傷つき、または命を落とし・・・遣る瀬ない気持ちになります。
今日の朝会では、とても大事な命にもかかわる話をしました。
江南北小のすべての子供たちに幸せな学校生活を送って欲しいと願って話しました。
私の話の内容は次のとおりです。
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わたしは、江南北小の全員が、学校に行くのは楽しみだ、学校では楽しいことがたくさんあるし、友達や先生と一緒に過ごせてうれしいなと感じて欲しいといつも思っています。
私がクラスの担任の先生だったころ、そのような思いをこめて、毎年クラスの子供たちに読んでいた絵本があります。今日はその絵本を読みます。少し長くなりますが、耳と心で聴いてください。
わたしのいもうと 松谷みよ子
この子はわたしのいもうと
むこうを むいたままふりむいてくれないのです
いもうとのはなしきいてください
いまから 7年まえわたしたちは この町にひっこしてきました
トラックに のせてもらってふざけたり はしゃいだり アイスキャンディを なめたりしながら
いもうとは 小学校4年生でした
けれど てんこうした学校で
あの おそろしいいじめが はじまりました
ことばが おかしいとわらわれ とびばこが できないと いじめられ
クラスの はじさらしとののしられ くさい ぶたと いわれ ― ちっとも きたない子じゃないのに
いもうとが きゅうしょくをくばると うけとってくれないというのです
とうとう だれひとり口をきいてくれなくなりました
ひと月たちふた月たちえんそくに いったときも いもうとは ひとりぼっちでした
やがて いもうとは学校へ いかなくなりました
ごはんも たべず口も きかず いもうとは だまって どこかをみつめ
おいしゃさんの手もふりはらうのです
でも そのときいもうとの からだに つねられた あざが たくさんあるのが わかったのです
いもうとは やせおとろえこのままでは いのちがもたないといわれました
かあさんが ひっしでかたくむすんだ くちびるにスープを ながしこみ
だきしめて だきしめていっしょにねむり子もりうたを うたって
ようやく いもうとはいのちをとりとめました
そして まい日がゆっくりと ながれ
いじめた子たちは 中学生になって セーラーふくでかよいます
ふざけっこしながらかばんをふりまわしながら
でも いもうとは ずうっとへやにとじこもって 本も よみません おんがくも ききません
だまって どこかを見ているのです ふりむいても くれないのです
そしてまた としつきがたち
いもうとを いじめた子たちは高校生
まどのそとを とおっていきます わらいながら おしゃべりしながら……
このごろいもうとはおりがみをおるようになりました
あかいつる あおいつるしろいつる
つるに うずまって……でも やっぱり ふりむいてはくれないのです 口をきいてくれないのです
かあさんは なきながら となりのへやで つるをおります
つるを おっているとあの子のこころがわかるようなきがするの……
ああ わたしの家はつるの家 わたしは のはらをあるきます
くさはらに すわると いつのまにかわたしも つるを おっているのです
ある日 いもうとは ひっそりと死にました
つるを てのひらにすくって 花といっしょにいれました
いもうとのはなしはこれだけです
わたしを いじめたひとたちは
もう わたしを
わすれてしまったでしょうね
あそびたかったのに
べんきょう したかったのに
(「わたしのいもうと」 松谷みよ子 文、味戸ケイコ 絵 偕成社 1987年)
このお話は作者の松谷みよこさんのもとに届けられた一通の手紙がもとになっています。
松谷さん自身ある時期いじめに遭っていたことがあったということで、あとがきにはその時のことを思い返して、こう書いています。
「その辛さは、地獄のそこをはうようであった。
幼い日の記憶に、あれはたしかイソップだったと思うのだが、池のカエルが子供に叫ぶのである。『おねがいだから石を投げないで。あなたたちには遊びでも、わたしには命のもんだいだから。』
わたしもさけびたかった。」と。
「あなたたちには遊びでも、わたしには命のもんだいだから。」
・・・いじめられている人にとって、いじめられることは「命の問題」なのです。
いじめる人にとっては、悪ふざけとか、取るに足らないことかもしれないけれど。
「あなたたちには遊びでも、わたしには命のもんだいだから。」
これを決して忘れてはなりません。
皆さんの周りにいじめはありませんか。
もしあったとしたら、あなたには今何ができますか。何をしてあげられますか。
自分にとって大事なこの一日は、誰かにとっても同じく大事な一日。
これからも自分とみんなの大事な一日を大切にしていける江南北小の皆さんであってほしいと
心から願っています。